RESEARCH SUBJECTS
課題と研究の特徴
 計算化学・情報化学を活用した、物理化学の深化と現代社会の課題解決の研究をします。計算を活用した化学の新しい貢献分野を開拓します。多様な課題にチャレンジする意欲ある学生・共同研究者の参加を求めています。
  1. クラスター科学を基礎とした物質創成、化学反応理論、分子分光理論の進化
  2. マクロシミュレーションと連携したエネルギー問題への貢献(原子力研究開発機構受託研究)
  3. 分子クラスターから細胞に至る分子認識系の光励起ダイナミクスと素過程解明(科研費 特定A計画)
  4. 分子理論を基礎とした地球・惑星大気の精密物理化学研究分野開拓(科研費 基盤C)
  5. 核形成の学理と応用(豊田理研特別課題研究)
 多様な研究課題に取り組めることは、コンピューターを道具とする計算化学の特徴です。また、一見無関係に見える課題の解決に必要なことが、実は共通していることもあります。量子化学をはじめとする分子シミュレーションが、実験や理論とならぶ研究手法として認知されてきましたが、現在もなお方法論的な研究の発展段階にあります。一方、個々の分子の性質から出発するのではなくて、大量の実験・観測データを網羅的に扱うことで自然を俯瞰的にとらえることにもコンピュターを活用できます。生命科学分野では、そのような研究が盛んです。問題に応じてアプローチの仕方を工夫しながら、ミクロとマクロを繋ぐ努力や、計算分子科学者だからできる異分野への貢献の努力をして行きます。  現実に解決すべき「実」課題の解決には、
  1. 問題の本質を注意深く検討し、必要な分子理論や計算手法を深化させること
  2. 物理化学の視点だけでなく、多角的に問題を検討すること
  3. 解析法を工夫して、計算結果の意味を明らかにし、発見につなげること
などが役立ちます。
 
クラスター・エネルギー問題関連課題
 原子や分子が数個から数千個あつまったものをクラスターと言います。ブドウが語源だそうです。クラスターは、原子、分子が孤立した気相、それらが凝集した液相や固相に対して第4の相と言われています。原子1個を入れ替えただけで、劇的に物性、反応性を変えることがあります。このクラスター特有の性質を巧みに使うことにより、孤立分子、凝縮相の物質では実現できない化学を展開させられる可能性があります。
 クラスターは溶液の局所的性質や化学反応理論を分子レベルで研究するターゲットでもあります。統計的な議論を超えて、これらの理解を深められます。
 アルカリ金属原子やその多量体の溶媒和、溶媒和電子の生成過程の研究を進めてきました。その一部であるナトリウムと水からなるクラスターの研究が、反応研究へと進展しています。この研究は、ナトリウム冷却型高速炉の安全設計のためのマクロシミュレーションの基礎となります。実験研究が行えない重要課題に、伝熱流動のマクロシミュレーションの研究者と協力しています。
生命科学関連課題
特定領域研究「高次系分子科学」の中で実験分子科学者と協力して、生体をはじめとする現実的で複雑な系における分子連動の研究に取り組んでいます。部品としての分子の研究を分子システムの科学に高めようと努力しています。またMALDIやNMRといった重要な分析手法の分子論的理解や効率化を目指す研究を実験と協力して進めていますが、実験を先導する役割を期待されています。
大気化学・環境問題関連課題
 温暖化やオゾン層の破壊など環境問題が社会的関心を集めています。これらの課題解決には、大気中に存在する分子の諸過程に関する精密な知識が不可欠です。しかしながら、現実問題に適用できる高い電子励起状態、分子衝突と散乱、大振幅振動、高振動励起状態、エアロゾルや人工降雨に繋がる核形成の理論などは、まだ未成熟です。地表面に近い大気から、高層大気、星間空間、惑星大気で起こる分子過程の研究に取り組み、大気シミュレーションや気象の研究者とも協力してこの分野に貢献したいと考えています。 地球大気の光化学で重要な酸素―水錯体の平衡定数と存在量予測に、世界で初めて成功しました。地球規模の錯体分布の季節変化シミュレーションなどの基礎となっています。
これまでの具体的成果は、トピックスのページをご覧ください。